臥牛山句会

鯉生自選句集

          冬菊            index  top


囀りや吾子にネクタイ教えけり


人も田も黄塵の中沈黙す


レール錆びて今日も卯の花腐しかな


椎若葉揺れてエチュード弾きにけり


作業音止みてしばしの初音かな


地虫出て地質調査技師を見る


                 七重八重つぼみのままに梅雨のそら     (池田小児童へ)


万葉の土塊に染む薄暑光


楽の音の天(あま)までとどけ秋螢


父の背を超えたと自慢終戦忌






そぼつ雨新薬師寺に秋惜しむ


秋蝶の二三羽過(よ)ぎる鄙の駅


飛鳥には飛鳥の光冬うらら


地卵や鍋焼うどん輝けり


オリオン座燦々として霜の声


歩け歩け放射冷却霜の朝


冬菊を一輪震災記念館


のっぺりとして紀州の海は冬うらら


赤き実の命を糧に寒雀


凍蝶の廃屋数軒見下ろして






独り見る冬の瀑布や虹微か


黒猫の大欠伸して小春空


冬紅葉一葉舞降り波の渦


ひしひしと底冷え大地の悲鳴かな


柚子一つ一つばかりの冬至風呂


酒一本焼酎二本寒に入る


モノクロの世界に遊べや寒すずめ


冬土用庭に細々大根かな


酒割って別腸に沁む寒の水


    マスクせぬ我何人(なんびと)や人避ける






無精妻珍しきこと蒲団干す


氷雨降る議員の夜のクラブかな


湯の中の裸体怪しくマスク付け


春寒や女医は栄転患者措き


春の雪青磁の猪口を零れけり


変温に付いて行き兼ね亀の鳴く


嬰児を褒められ麗交差点


雛祭り娘なき身に女児の友


大未来ハワイと握手3.11


フクシマ忌大地震怖れぬ人の業





徒然に酒の捗り長閑けしや


   春寒や見守りの児も捨てっちまおか


春山に出て遠くさらにさらに遠く


春風や老いに眩しき乙女子よ


鶯よ老となる間に疾くと鳴け


ラケットに少し手応え暖かや


泣く子看る消毒液の温さかな


芋飯や晴れて憲法記念の日


歳重ね着替え忙し夏は来ぬ


虫踏んで可哀想よと泣く子かな






雀の子生まれた軒は焼き鳥屋


老鶯や敵とも知らずホトトギス


木漏れ日やゆらゆらゆらり夏の蝶


大いなる鏡並べて田水張る


百足潰すサッシの屋なら無き殺生


初蝉や街燈点る頃合いに


片蔭や猫も犬も老人も


虐殺はなかったといふ夏悪夢


ワクチンを打たぬ自由よ夏の空


雷雨来てゼウスの足の速きこと






古も熊蝉抱きし大楠よ


同じ汗されどかなしき敗者かな


溜息は終ぞ変わらず秋立ちぬ


オリンピック自賛首相の長崎忌


コロナ禍に如何におわすか星の恋


終戦忌マスクで隠す本音かな


彼岸花長き旅路の末九州


古き良き大正ロマン夢二の忌


              秋茜小さな身体に金の笑み    (道下美里さんへ)


ゑのころ草戯るゆびの細さかな






自転車に乗れた笑顔や望の月


洞爺丸狩野川伊勢湾八雲の忌


ランドセル朝の挨拶天高し


野良猫の胴膨らみて秋寒し


冷まじやリベラルの波沖へ沖へ


目薬の冷たさ沁みて今朝の冬


兵は亜米利加の地に桃青忌


塒指す烏も我も冬麗


公園の野良の名吾輩漱石忌


冬眠中ペンキ塗り立て注意札






大根好き大根羨む他所の畑


薬忘れ酒は忘れず年を越す


コンビニに律義に挨拶大晦日


嫌マスクのまま年越し八十路入る


元日におにぎりを買う親子かな


元日や店先で呑む爺もゐて


冴え返る我が身の置き場探しけり


叱られてこどもは帰る春六時


囀りは未だ水面の朽ち木かな


初蝶や庭の小畑の偵察に






そっと手を添えて嬉しい弥生かな


春風や八十路の翁ふらふらと


六年間地球は回り卒業す


自転する地球よ少女卒業す


彼岸会や暮れて雨降る鄙の寺


母植えし桜見守る古代楠




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