haiku




 すべて2000年前後の作品です。

雑詠(冬、春)      正月和歌も少し



雑詠

鳶高く飛翔金剛山冬日

紅梅や秘めし色香のただよいて


客もなし水仙一輪テレビの上


紅梅の迎えて呉れし無人駅


紅梅や墨絵となりてなお紅し


杏の花香りて里の美しき


杏咲いて甘楽町の風優し


受験子の心のままに今日の晴

言祝ぎの母の笑顔よ春の初め

乱開発にため息ついていぬふぐり


星の瞳ともいうべきやいぬふぐり


ほとけのざ花弁それぞれ個性あり


里山の土曜の午後の水温む


病み上がり優しき里の春の風


天平のほとけ畏こし今日の春


主替わり孫もおどろく春厨




畦塗って飯豊の嶺神々し


囀りや吾子にネクタイ教えけり


渋滞の合間に嬉し初燕


人も田も黄塵の中沈黙す


霾(よな)ぐもり人も畑も沈みけり


綿の花紅を彩る千葉の海


山吹や光もわずか三つから


山吹や今朝の空気の旨さかな


啄木鳥やもう五時過ぎの報せかな




人一人通らぬ道よ朧月


母の日や裸足の子らの笑顔かな


椎若葉揺れてエチュード弾きにけり


燕の子軒下低き宿場町

レール錆びて今日も卯の花腐しかな


 


和歌も少し

悲しみの涙を溜めて空を見る心のごとき細き月影

お気の毒以外の言葉が見つからぬ我が辞書の薄さ悲しき

言葉とはある意味悲しい飾り物伝えられるは涙の一割

彷徨えるひとの心のよりどころ篤き涙を生きる力に

詠う事それが癒しになるならば歌ってほしい君の心を

君の歌詠えば彼の人また詠う心の歌愛の歌



ー春ー

あけ染めて連翹萌ゆるここかしこ

花びらを透かして朧月夜かな

 束の間は掴める位置に朧月

夕餉待つはよ帰れやと春の月

紀ノ川を鏡に化すや春満月

ひと一人大河わたるや春の月

故郷へつづく道なり鳥帰る

 春寒や君のみならず郵便夫

ソプラノに惹かれて騒ぐか恋の猫

作業音止みてしばしの初音かな

地虫出て地質調査技師を見る



ー夏ー

八つの御霊へ
七重八重つぼみのままに梅雨のそら

粉河寺クマゼミ威張る仁王門

(ある女性ピアニストの誕生日に)

ピアニッシモ若葉を揺らすひと雫

(あるひとの慰めに四句)

あげつらう唇卯の花腐しかな

あじさいや涙あふれて光りけり

泣きもって心癒せよ夕の虹

老鴬の落とし文して去りにけり

(万葉を歩く)

独り身のひたすら歩く麦の秋

万葉の土塊(つちくれ)に染む薄暑光

辿り来て長家王墓に風薫る

他生の縁飛鳥大仏梅雨の中

虎が雨飛鳥大仏おんな座す


ー秋ー

今朝もまたいのちみつめて秋立ちぬ

ある方の訃報に接して
楽の音の天(あま)までとどけ秋螢

いまはむかしあのころのこと虫の秋

風強しとんぼとともに夜もすがら

父の背を超えたと自慢終戦忌

美しき余韻の朝秋立ちぬ

より碧き一輪摘んで月の野路

紀ノ川や虫の音染みる万年床

虫の音もつまみとなさむ独り酒

少女あり席立ちてなお爽やかに

幼き日の想い何処か秋の雲

雨そぼつ新薬師寺に秋惜しむ

人恋し正倉院展秋雨の中

秋惜しむ入江泰吉美術館

頬張れば父の思い出柿渋し

制服と携帯あふる鹿の奈良

紀ノ川や光り踊りて小六月

アフガンも 同じ色なり 曼珠沙華

秋蝶の二三羽過(よ)ぎる鄙の駅

紀ノ川に若人ふたりねこじゃらし

ねこじゃらしにぎりしままに寝入る子ら

子供山車子らより多い大人たち


ー冬ー

冬ごもり齢重ねの長電話

きんぴらの人参ありて映えにけり


フグ刺しを透かして見せるおちゃめかな

飛鳥には飛鳥の光冬うらら

地卵や鍋焼うどん輝けり

山仕事ぶるる弁当の冷たさよ

オリオン座燦々として霜の声

歩け歩け放射冷却霜の朝

紀ノ川や川面にゆれる冬満月

冬菊を一輪震災記念館

のっぺりとして紀州の海は冬うらら


紀州梅林木肌澄まして春を待つ



崖登る草木に優し冬の陽よ

赤き実の命を糧に寒雀

数あれど祈りは一つ星流る

冬の苗健やかなれと愛でて植え

寒村の古りし墓標に今朝の霜

冬の蝶廃屋数軒見下ろして

人影も見えねど其処に干し菜あり

今朝採れし葱一本の便りかな

湯冷めゆえ臥せる母屋の艶めきて

風囲い病んでなお友思うとき

独り見る冬の瀑布や虹微か

畠に生うる菜にも勤労感謝の日

黒猫の大欠伸して小春空

山茶花や一輪愛でる佳人かな

山茶花の一輪散ってなお白し

冬銀河露天の風呂に肌を赤

岩風呂や肌にひとひら冬紅葉

谷間にも移動図書館冬ぬくし

木枯らしや移動図書館陰薄し

雨終日但馬山間暮易し

五重塔山の端照らす冬の月

枯葉にも命ひととき時雨止む

冬紅葉一葉舞降り波の渦

歳事記は春の部を見て亀蒲団

ひしひしと底冷え大地の悲鳴かな

山の宿乙女の祈り昂麗

柚子一つ一つばかりの冬至風呂


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